ショートムービーや言動など色々気になる部分もありますが、今回は「フェニックス」について調べたことをご紹介します。
oのないPhenix
アイドルユニット名「フェニックス」ですが、これは皆さんご存知、西洋の「不死鳥」ですね。公式による英語表記は“Phenix”です。「フェニックス」は一般的な綴りでは“Phoenix”と、“o”が入ります。ですが、このo抜きの綴りが必ずしも間違っているわけではなく、これはどうやら古い綴り(中英語における綴り)のようです(参考:phenix - Wiktionary)。あるいは、アメリカでしばしば見られる綴りのようです(ジーニアス英和による)。発音をカタカナ書きするならば、どちらも「フィーニクス」のような感じになります(フェニックスという発音をするのは中世ラテン語です)。oはあってもなくても変わりません。oeを「イー」と読む英単語はいくつかありますが、ラテン語やギリシア語を語源に持つ単語に多いように思います(参考:"oa", "oe" の読みかた ( その他教育 ) - 英語の綴りと発音の不一致をフォニックスで解決 - Yahoo!ブログ等)。
Phoenixは語源を辿っていくと古代ギリシア語“φοῖνιξ”にたどりつきます。古代ギリシア語の“φοῖνιξ”が古典ラテン語の“phoenīx”になり、中世ラテン語で“phenix”になり、それが古フランス語及び古英語に入って“fenix”になったようです。現代フランス語では“phénix”になっています。他の言語においても、例えばイタリア語では“fenice”ですし、綴りの冒頭部にoは入りません。現代英語のように最初が“Pho”や“fo”のようになっている言語はほとんどないようです。
phoenix - wiktionary |
語源的綴り字
なぜ現代英語の綴りにはoが入るのでしょう。おそらく、「語源的綴り字」によるものではないか? と思います。英語はゲルマン語派ですが、ラテン語起源の単語もフランス語などを経由し、ある程度変形を受けるなどしながら入ってきています。
英語はざっくり言うと、古英語(5世紀~11世紀中頃)→中英語(11世紀から15世紀頃)→近代英語(16世紀から19世紀)→現代英語(20世紀以降)という変遷をたどっています。
近代英語への変化期、イギリスにおけるルネサンス(1500-1650年あたり)の際を中心にラテン語回帰の動きがあって、変形して入ってきたラテン語起源の単語の綴りをラテン語本来の綴りに近づけようとする傾向がありました(参考:文献1,p.53)。この影響を受けてラテン語風に変化した綴りを、「語源的綴り字」と呼びます。
語源的綴り字の例によくあげられるのはdoubtやdebtなどですが、ここでは“disc”をご紹介しましょう。
円盤を指す英単語は、もともとは“disk”でした。古代ギリシア語起源の語がラテン語に入り“discus”になり、フランス語“disque”を経由して英語に入った際に“disk”になったようです。これが「語源的綴り字」によってラテン語“discus”に近づけるためにイギリスで“disc”に変化したようなのですが、アメリカでは“disk”の綴りが保存されました。
今ではdiscは光学ディスクを、diskは磁気ディスクを指すという使い分けができていますが、これは光学ディスク開発に貢献したのがヨーロッパの企業(Philips社)で、磁気ディスクを開発したのがアメリカの会社(IBM)だからだそうです(参考:Spelling of disc - Wikipedia等)。
phoenixもdiscと似たようなルートで英語に入っているようですし、古い綴りである“phenix”がしばしばアメリカで使われるということは、“phoenix”も語源的綴り字である可能性がありそうです。まあ、あくまで素人であるわたしが類推した結果なので、色々間違っている可能性はあります。
色々語ってきましたが、結局何が言いたいかという結論を書いておきます。
オトカドールにおけるフェニックスの“Phenix”という綴りは間違いではありません。
中英語における綴り、あるいは中世ラテン語における綴りを利用しているため、oのない“Phenix”という綴りになっていると思われます。
現代英語の“Phoenix”は「フィーニクス」のような発音になるため、フェニックスという発音を持つ中世ラテン語の“Phenix”表記の方を採用した可能性があります。
と、こんなところです。
bnwからφοῖνιξへ
さて、不死鳥フェニックスですが、この不死鳥の起源はエジプトにあるようです。死んで蘇る不死鳥のイメージはギリシアにおいて発生したようですが、古代エジプトの神「ベヌー(bnw,異表記:ベンヌ、ベヌウ)」が影響を与えているそうです。ベヌーは太陽、創造、復活と関連付けられる神で、自分自身を創造して生まれ、世界創造の役割を果たしたそうです。鳥の姿をしていますが、この神は古くはツメナガセキレイをモデルとした姿で描かれ、新しい時代になるとアオサギ属の1種をモデルとした姿で描かれるようになったようです(参考:Bennu - Wikipedia)。
![]() |
ツメナガセキレイ(wikimediaより) |
アオサギ(wikimediaより) |
この神のイメージがギリシアに入り、“φοῖνιξ”と呼ばれるようになりました。この“φοῖνιξ”という単語は主に貝紫色(ロイヤルパープル)あるいはクリムゾンを指す単語だったようです。英語版Wikipediaにはphoenixという名前は“Bennu”に由来するかもしれない、と書かれています。ただ、ぱっと見では“Bennu”と“phoenix”は全然似ていません。“Bennu”から“phoenix”へどうやって変化したのかがwiktionaryなどには書かれていなかったので、自分で少し考えてみます。以下、わたしの推論です。
「ベヌー」はヒエログリフでは“bnw”と書かれます。ヒエログリフは表音文字ですが、基本的に子音のみで書かれるために正確な発音を知ることが難しいため、“bnw”も「ベヌー」とは発音されなかったのかもしれません。それでも子音としてbとnを持つのは明らかです。有声音bは無声音化してfやphになる可能性があることを考慮すると、“b_n_w”は“ph_n_w”としてギリシアに入った可能性もないわけではなく、そうすると“ph_n_w”も“φοῖνιξ(phoînix)”も最初の子音の並びが“ph n”になります。というような経緯から、bnwがギリシア語に入った際、発音が近い“φοῖνιξ(phoînix)”という単語が当てられたのかもしれません。そして“φοῖνιξ”という単語の持つイメージに釣られて、フェニックスは赤い鳥であるというイメージが生まれたのではないか……。とはいえ、これも素人であるわたしの推論なので、間違っている可能性が大いにあります。
フェニックスはどんな鳥か
フェニックスの原型である「ベヌー」はツメナガセキレイ、アオサギ、あるいはワシの姿をしており、ギリシアで発生したフェニックスは主にワシのような姿を想定されていたようです。![]() |
炎に包まれて死ぬフェニックス(wikimediaより) |
さて、フェニックスの話だけでかなり長くなってしまいました。次回はコーデの名前――セグレート、ジョルノ、ノッテ、ダイアーナルにノクターナルなど、そのあたりの話をしたいと思います。
参考文献
- 堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社,2016
- 名尾良泰『英語から学べるイタリア語』国際語学社,2011
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